肥後医育塾公開セミナー

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令和6年度 第2回公開セミナー「熊本が生んだ近代医学のヒーローから新時代の感染制御へ」

【座長・講師】
熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センターゲノミクス・トランスクリプトミクス分野教授
佐藤 賢文

『【講演3】知っておきたいワクチンのしくみ』
免疫を獲得し感染を予防


  私たちは病原体に感染すると病気を発症することがありますが、それにより「免疫」を獲得。再び同種の病原体が侵入しても免疫が働くことで抵抗力を身に付けています。
 免疫システムは次のように進んでいきます。ウイルスや細菌、毒素などの病原体が体に入ったら、前線部隊である自然免疫系細胞が病原体(抗原)を検知します。その情報はすぐに獲得免疫系のT細胞やB細胞に伝わり、抗原が持つ独特のタンパク構造を識別します。T細胞が感染細胞表面の抗原を目印に攻撃し、B細胞は抗原と結合し毒素を中和する抗体を作り、ウイルスや細菌を無力化します。
 こうした免疫の仕組みを使ったのが血清療法やワクチンです。北里柴三郎の偉大な功績は免疫の仕組みの中で抗血清(抗体)が存在することを示し、血清療法を開発したことです。
 病原体に感染して抵抗力を持った人(動物)の血液中に含まれる抗体を製剤化し、予防や治療に使うのが「血清療法」です。北里は動物由来の抗体を使いましたが、今ではヒト由来のものを製剤化し、各種の処理をして安全性を高めています。ただ、それでも副作用が起こることがあるので、作用と副作用のバランスを考えて治療が行われています。
 一方のワクチンは、弱毒化または不活化した病原体を接種することで、体を擬似的に感染したような状態にして免疫機能を働かせ、病原体に対する抵抗力をつける方法になります。ワクチンを接種すると記憶免疫とも呼ばれる細胞がつくられ、それが体内に存在することで同じ病原体への感染に抵抗します。
 ウイルスの遺伝子情報(DNA配列)はmRNAに転写され、タンパクが形成されます。新型コロナワクチンでは、その仕組みを利用した新しいタイプのワクチン「mRNAワクチン」が登場しました。これは、タンパクになる前のmRNAを体内に接種することで免疫を獲得させる仕組みです。利点としては迅速な開発が可能で、さまざまな変異ウイルスにも柔軟に改変が可能です。一方、欠点は長期的な安全性については未知であることなどです。
 ワクチンの接種効果は加齢とともに低下し、感染への抵抗力がつきにくくなってきます。理由としては、加齢による自然免疫系細胞の機能低下、獲得免疫系細胞数の減少や機能低下が考えられます。
免疫力低下への対策としては@栄養バランスの良い食事A十分な運動と睡眠Bストレス管理C適切な水分補給C過度な飲酒を控えるD禁煙−など、健康な生活習慣を身に付けることが大切です。