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「すぱいす」 2026年8月号

【元気の処方箋】
「年齢のせい」と諦めないで 過活動膀胱(ぼうこう)

トイレに頻繁に行きたくなる、尿漏れするなどの悩みは人に相談しにくいもの。不快な症状が改善すれば、日々をもっと楽しく過ごせるはずです。今回は、そんな悩みの原因となる「過活動膀胱」についてお伝えします。

(編集=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)

執筆者

熊本大学病院泌尿器科
女性骨盤臓器脱診療センター
特任助教
原田 成美さん
日本泌尿器科学会専門医


日常生活を制限していませんか?

「さっきトイレに行ったばかりなのに…」「急にトイレに行きたくなって、我慢できずに漏れそうになる」―。こうした尿のトラブルに悩まされていませんか。「年齢のせいだから」「恥ずかしくて誰にも言えない」と、外出を控えたり、水分を極端に減らしたり、日常生活を制限している方は少なくありません。

これらは決して特別なことではなく、「過活動膀胱」という病気が原因かもしれません。過活動膀胱は、適切な診断と治療によって症状を緩和できる病気です。今回は、その症状や原因から専門治療まで分かりやすく解説します。


過活動膀胱とはー男女共に多い身近な病気

過活動膀胱とは、急に起こる我慢できないような強い尿意(尿意切迫感)を主な症状とする症候群です。

正常な膀胱は、尿が十分にたまるまで脳がブレーキをかけ、勝手に膀胱が収縮しないようコントロールしています。しかし過活動膀胱になると、何らかの理由でこのコントロールがうまくいかなくなり、尿が十分にたまっていなくても膀胱が過剰に収縮してしまい、強い尿意を感じるようになります。

40歳以上の男女の約8人に1人がこの病気に該当します(図1)。誰にでも起こり得る身近な病気です。


症状と原因ー急に起きる我慢できない尿意

過活動膀胱で最も重要な症状が、先に述べた「尿意切迫感」です。この「急に起きる我慢するのが難しい強い尿意」に加え、頻尿(昼間に8回以上)、夜間頻尿(夜間に1回以上)、切迫性尿失禁(強い尿意を我慢できずに漏れる)などの症状を伴います。

原因は大きく分けて二つ。一つは、図1で示すように加齢によるものです。男性では前立腺肥大症に伴って起きる場合が多く、女性では骨盤臓器脱に伴うこともありますが、ほとんどが明確な原因を特定できません。

もう一つは神経因性といわれるもので、脳血管障害、パーキンソン病といった脳の病気や、脊髄損傷、脊柱管狭窄症など脊髄の障害により、脳と膀胱を結ぶ神経伝達が妨げられることで起こります。


診断と治療ー行動療法、体操、薬物療法が有効

まず問診や簡単な質問票を使って症状を把握します。尿検査や超音波検査で、膀胱炎や尿路結石、前立腺肥大症、がんなど、泌尿器系の器質的疾患の存在が除外されれば、過活動膀胱と診断されます。

治療は生活習慣の改善から始め、段階的に進めていくのが一般的です。生活習慣の改善として行動療法があります。カフェインやアルコールなど利尿作用のある飲み物を控え、過剰な水分摂取を見直します。

「膀胱訓練」という、尿をためる練習も効果的です。尿意を感じたときに、少しだけ我慢する練習(まずは5分から)を段階的に行い、膀胱に尿をためられる容量を増やしていきます。漏れを気にするあまり、ほとんど尿がたまっていないのに1時間に何度もトイレに行くのは逆効果です。

骨盤の筋肉を鍛える骨盤底筋体操(図2)も過活動膀胱に有効といわれています。最低でも3カ月は継続しましょう。


(2)と(3)を1セットとして、1日数回に分けて5セット程度行います。


骨盤底筋は、骨盤の底にハンモック状に広がっている筋肉群で、膀胱、子宮、直腸など、骨盤内にある臓器を支えています。

薬物療法では主に、膀胱の過剰な収縮を抑え尿をためやすくする「抗コリン薬」や「β3作動薬」が使われます。近年は、口の渇きや便秘などの副作用が少ない新しいタイプの薬も登場し、患者さんの体質に合わせて選べるようになりました。


[CHECK!]「難治性過活動膀胱」に専門治療ーボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法
ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法(図3)

薬物療法を12週間続けても頻尿や尿失禁が改善しないケースを「難治性過活動膀胱」と呼びます。かつては諦めざるを得ないこともありましたが、現在は効果的な二つの専門治療が普及しています。

美容医療の「しわ伸ばし」で知られるボトックス注射と同じ成分を、膀胱に応用した治療法です。内視鏡(膀胱鏡)を使って膀胱壁に直接注射することで、筋肉の過剰な緊張をリラックスさせ、強い尿意や尿漏れを劇的に和らげます。効果は約4〜8カ月持続し、外来や短期入院で繰り返し治療することができます。


仙骨神経刺激療法(SNM)
仙骨神経刺激療法(SNM)(図4)

いわば「膀胱のペースメーカー」ともいえる治療法です。排尿に関わるお尻の神経(仙骨神経)の近くに小さな電気刺激装置を植え込み、微弱な電気を流し続けます。これにより脳と膀胱間の乱れた神経信号を整え、膀胱の過剰な収縮を抑えます。

まずは数日間お試しで電気を流し効果を確認(試験刺激)した後、本格的に装置を体内に埋め込むため、効果を実感して治療を選択できます。


おわりにー快適な毎日を取り戻そう

過活動膀胱は、命に関わる病気ではありません。しかし、「いつ尿意が襲ってくるか分からない」という不安は、外出を妨げ、生活の質の低下につながります。今は、生活習慣の工夫から最新のボトックスやSNMに至るまで、患者さんの状況に応じた治療法があります。

「年のせい」と諦める必要はありません。快適な毎日と健やかな笑顔を取り戻すために、まずは一度、お近くの泌尿器科へご相談ください。