肥後医育塾公開セミナー

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令和6年度 第3回公開セミナー「新興・再興感染症の不思議 正しく知って正しく防ぐ」

【講師】
熊本大学病院感染制御部 部長
中田浩智

『【講演1】新興・再興感染症とは?』
麻疹や結核などが増加


  「新興感染症」とは、過去に知られていなかった病原体が起こす感染症のことです。多くは動物が持っていたウイルスが、さまざまな要因で人にも感染するようになり流行します。記憶に新しいのは「新型コロナ感染症」で、コウモリから人に感染し、さらに人流が感染拡大に影響しました。他の感染症の拡大の要因も見てみましょう。
 「HIV(ヒト免疫不全ウイルス)」はアフリカが起源でチンパンジーから人に感染しました。このウイルスは輸血や性行為で人から人に感染し、その後人の移動に伴い米国や世界中に広がりました。
 「エボラウイルス病」もコウモリが媒介する感染症です。以前から中央アフリカで流行を繰り返していましたが、近年、西アフリカでの流行が問題になっています。自然破壊によりウイルスを持つコウモリが西へ移動し感染が拡大したといわれています。
 「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」はマダニが媒介します。当初の発生地域は西日本に限られましたが、近年では温暖化の影響で東京都や石川県でも報告されるようになりました。マダニから人への直接感染の他、ネコなどの動物を介し広がることもあるので注意が必要です。
 「再興感染症」は、いったん沈静化していたものが再び流行する感染症のことです。日本では「結核」「麻疹[はしか]」「デング熱」「マラリア」「狂犬病」などが該当します。
 「麻疹ウイルス」は空気感染し、1人から12〜17人に広がるほど強い感染力を持っています。日本ではワクチン接種の拡充により土着の麻疹は抑制できていますが、海外からの持ち込みは続いています。2018年には一人の旅行者から、沖縄だけで99人まで感染者数が拡大しました。
 結核について現在、日本は患者数10万人当たり10人未満の「低まん延国」とされています。しかし近年、高齢者や日本に住む外国人の間で増加傾向にあり注意が必要です。
 新興・再興感染症予防には温暖化や自然保護への対策、抗菌薬の適正使用などを含めた横断的な取り組みが必要です。人や動物の健康は、取り巻く環境と相互的につながっており、総合的な対策が必要という考え方「ワンヘルス」が提唱され始めています。
 今後、世界の人流がさらに活発化すると、感染症はより早く広がるとみられています。個人ができる予防対策は、手洗いや手指の消毒、マスク着用、ワクチン接種など、基本的にはコロナ禍と同様です。適切な情報の下、自分を守り、他人を思いやる気持ちで感染予防の習慣を続けることが大切です。