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肥後医育塾公開セミナー

平成12年度 第2回公開セミナー「がんはどこまで治せるか」

【講師】
済生会熊本病院消火器病センター部長
多田 修治

『がんの治療はどこまで進歩したか?胃がん・大腸がん?』
リラックスこそ大切


   なぜ人は胃がんや大腸がんになるのでしょう。胃や大腸は同じような構造で出来ていて、粘膜、粘膜下層、筋肉、漿(しょう)膜の四つの層から成ります。胃がんも大腸がんも、この粘膜に発生します。粘膜には上から三分の一くらいの所に細胞がたくさん生まれる場所があり、生まれ替わる間に、遺伝子的な変化、傷、放射線、発がん物質などに触れると、がん化が起こってしまうのです。

 例えば大腸ポリープの場合、ポリープが出来ただけではがんになりません。何らかの遺伝子的な変化や食べ物の変化などが加わって初めてがん化します。

 すなわち胃がん、大腸がんは、階段を六つから七つ上がっていかないと、人の命をおびやかすがんにはならないのです。

 がんが粘膜だけにある場合と粘膜下層にある場合を早期の胃がんと呼び、粘膜下層の外側に出てしまうものを進行がんといいます。がん細胞は腫瘍が出来ただけでは人体に悪さはしません。ところがひとたび基底膜を破ると、細胞がばらけ出して移動する力を獲得し血管に入り、どこかに漂着して新たに転移巣を作るというわけです。そのため、何とか最初の時点で食い止めたいと努力するのが、胃がんや大腸がんを退治する臨床医の立場です。

 胃がんというと、1960年代までは、すでにほかにも転移がある進行がんの形でしか見つかりませんでしたが、1970?80年代にかけて、がんが早期に見つかるレントゲン二重造影法が私たちに教授されました。

 今では、一センチちょっとくらいの早期がんなら、手術で取り除けば百パーセント治ることが分かっています。1990年代にはレントゲンや内視鏡の検査が大変発達したので、体に大きな傷を作ることなく、少ない治療でがんを治すことが可能になりました。内視鏡下手術、あるいは腹腔鏡下手術といわれる、おなかを開けずに、がんの部分だけを腹腔鏡や内視鏡を使って取り出す方法です。これだと胃のほとんどを残すことが可能で、手術後の傷もほとんど残りません。今では微小ながんなら内視鏡だけで治せるようになりました。

 大腸がんでもまったく同じことがいえます。直腸にできた進行がんの場合、以前は直腸を全部取って人工肛門をおなかの横に着ける方法しかありませんでしたが、早期発見によって内視鏡で取ることができ、人工肛門も作らずに済むようになったわけです。

 もう手術を恐れる時代ではなくなったといっていいでしょう。ですからどうか皆さんも、自覚症状が出る前に検査を受けて、新しい治療法の福音に浴していただきたいと思います。

 がん克服の三大条件をまとめますと、一つは定期的に健康診断を受けることです。二つ目は、家族の遺伝的な弱点を知っておくことです。三つ目は、できる限りストレスの少ない生活を送ることです。ストレスがあるとがんが発生しやすいことが動物実験でも分かってきています。その一番の要因は、ストレスによって体の中のがん化を防ぐための免疫機構が弱まるためです。

 一昨年、私はアメリカのメイヨー・クリニックに勉強に行かせていただきました。そこの腫瘍センターにも同じように、「リラックスする時間をつくりましょう。仕事と家庭のバランスをとりましょう」と書いたパンフレットが置いてあり、体の健康を保つ上でそれが大切なことであるという認識は日米共通だなと感じたわけです。
 それで私は、腫瘍センターのポストカードを今も机に飾っていて、院長先生に怒られたときなどはこれを眺めて心をいやしております。