誰が言い出したのか、今回は淡海・琵琶湖の湖北への旅。しかも、その奥の菅浦(すがうら)や余呉(よご)湖です。こうして私たち同行七人、二泊三日の旅の途中で十回の句会、作った俳句は各人百句。これはもう俳句巡礼の旅。まさに、
俳諧の月たとへ野に果つるとも 中正
という決意です。
乗車して湖が見えはじめると、もう気もそぞろです。まずは土地への挨拶の一句。
ゆく秋の旅のはじめの湖西線 中正
やはり堅田(かたた)の浮御堂(うきみどう)は、一番の俳句スポット。時ならぬ台風もそれた秋夕焼けのまっ只中。金色の大夕焼けに包まれて、浮寝の鴨(かも)と心ひとつになるところです。
夕鴨のよべばこたへるところまで 中正
鴨暮れてゆく影となり波となり 湯川 雅
湖北の果ては、美しい隠れ里の菅浦。村人は配流(はいる)の帝(みかど)を祀(まつ)って千年、神社の参道は今もなお土足厳禁です。
廃帝を神とし祀る浦の秋 岩田公次
花芒(はなすすき)最北端の風となる 中井汰浪
湖北も古戦場賤ヶ岳(しずがたけ)のふもとの余呉湖までくると、冬はもうすぐそこ。畑のものを食べる野猿に出会ってびっくり。振り向いた真っ赤な顔が、いかにも冬。
猿(ましら)ふり向きざまに冬立ちにけり 中正
賤ヶ岳颪(おろし)や鴨の陣乱れ 古賀しぐれ
旅のおわりは、巡礼らしく竹生(ちくび)島。芭蕉の「ゆく春を近江の人と惜しみける」ではないけれど、ゆく秋を近江の人と惜しんだのでした。
信仰にふくらむ島の秋日和 今橋真理子
別るるは湖北時雨の中にかな 藤井啓子
鳶(とび)鳴いて湖北に雪の来るころか 中正 |