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「あれんじ」 2010年12月18日号

【四季の風】
第9回 淡海(おうみ)の旅

めぐりくる季節の風に乗せて、四季の歌である俳句をお届けします。

鳶(とび)鳴いて湖北に雪の来るころか 中正

 誰が言い出したのか、今回は淡海・琵琶湖の湖北への旅。しかも、その奥の菅浦(すがうら)や余呉(よご)湖です。こうして私たち同行七人、二泊三日の旅の途中で十回の句会、作った俳句は各人百句。これはもう俳句巡礼の旅。まさに、

俳諧の月たとへ野に果つるとも   中正

という決意です。
 乗車して湖が見えはじめると、もう気もそぞろです。まずは土地への挨拶の一句。

ゆく秋の旅のはじめの湖西線 中正

 やはり堅田(かたた)の浮御堂(うきみどう)は、一番の俳句スポット。時ならぬ台風もそれた秋夕焼けのまっ只中。金色の大夕焼けに包まれて、浮寝の鴨(かも)と心ひとつになるところです。

夕鴨のよべばこたへるところまで   中正

鴨暮れてゆく影となり波となり  湯川 雅

 湖北の果ては、美しい隠れ里の菅浦。村人は配流(はいる)の帝(みかど)を祀(まつ)って千年、神社の参道は今もなお土足厳禁です。

廃帝を神とし祀る浦の秋  岩田公次

花芒(はなすすき)最北端の風となる  中井汰浪

 湖北も古戦場賤ヶ岳(しずがたけ)のふもとの余呉湖までくると、冬はもうすぐそこ。畑のものを食べる野猿に出会ってびっくり。振り向いた真っ赤な顔が、いかにも冬。

猿(ましら)ふり向きざまに冬立ちにけり 中正

賤ヶ岳颪(おろし)や鴨の陣乱れ 古賀しぐれ
 旅のおわりは、巡礼らしく竹生(ちくび)島。芭蕉の「ゆく春を近江の人と惜しみける」ではないけれど、ゆく秋を近江の人と惜しんだのでした。

信仰にふくらむ島の秋日和  今橋真理子

別るるは湖北時雨の中にかな  藤井啓子

鳶(とび)鳴いて湖北に雪の来るころか 中正