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「あれんじ」 2022年10月1日号

【元気の処方箋】
特別なことじゃない ひきこもり 〜新しい生き方を探して〜

 「ひきこもり」は今、さまざまな世代で数多く起きています。しかし、その理解が進まないことも含め、本人はもちろん家族や周囲の悩みは深いものがあります。今回は、ひきこもりの概念や対応、支援についてお伝えします。(取材・文=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)

【はじめに】さまざまな背景があるひきこもり

 「ひきこもり」とは、就学や就業などの社会参加をしていない、家族以外の人と交流がない状態、と定義されています(詳しくは、厚生労働省の「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」を参照ください)。
 さまざまな身体疾患、精神疾患が背景にある場合もあります。精神疾患には統合失調症、発達障害、パーソナリティ障害、不安症、うつ病などがあります。例えば統合失調症が考えられる場合は、まず治療を勧めます。幻覚や妄想など本人を苦しめる要因が治療で軽減されるからです。社会参加より治療が優先であると本人や家族が共有することが大事です。
 ひきこもりはどんな年齢層にも起こります。特別なことではないということを初めにお伝えしておきたいと思います。


【なぜひきこもるの?】苦しんでいる本人

◆自分を追い詰める状況に
 なぜひきこもることになったのかについては、きっかけや理由があります。不登校、就職できなかった、就職したけれど退職した、病気をした、などさまざまです。しかし、共通して言えるのは、ひきこもる前の生活が本人にとってつらいものであったということです。
 例えば、なりたかった自分と今の自分とのギャップに苦しんだり、「こういう生き方をしたい」という思いで頑張ってきたのに、うまくいかなかったり。
 それらをきっかけに社会の中に居場所を失ってしまうことによってひきこもり始めると、「ひきこもった自分がダメなんだ」「もう自分の人生は取り戻せない」といった思いが生まれ、それが自尊心を傷つけ、意欲をむしばみ、「もう自分の思い描いていた生き方はあきらめざるを得ない」という深い喪失感の中で、悶々(もんもん)とひきこもり続けることになります。さらに「もう普通の生活に戻るのは無理だ」と自暴自棄になって、生きる意欲を失ってしまうこともあります。


【どう対応したらいい?】前の生活に戻そうとせずに まずはねぎらいを

 ひきこもるという手段を選ばざるを得なかったほどつらかったのです。そんなに自分で自分を追い詰めないでほしいと思います。本人には「大変でしたね」とねぎらい、元気が出るまで「まずはゆっくりしてください」「意欲が湧いてきたら、新しい生き方を探しましょう」と伝えたいと思います。
 大事なのは、前の生活に戻そうとしないことです。以前の生活がつらかったからひきこもったのに、そこに戻そうとするのは本人には受け入れがたい状況だと思います。そのままひきこもり続けるしか選択肢がなくなってしまいます。
 以前の生き方は、たくさんの生き方の中の一つに過ぎません。それが苦しかったのなら、別のいろんな生き方から自分に合ったものを選んでいいのです。それを本人はもちろん、周囲にも分かってもらいたいと思います。


大事な家族の理解 多様な生き方に寛容な社会に

 このことを一緒に暮らす家族が理解しないと、本人と家族の間でトラブルが起き、家の中で気持ちを傷つけ合うことになりかねません。
 しかもこの理解の必要性は家族の中にとどまらず重要です。家族も本人も今の社会が目指すべきとしている普通の生き方をしようとしたのにできなかった結果、ひきこもることになった。そこで心身を休め、新しい生き方で頑張りたいと思ったとしても、社会に認められ、何よりも自分が納得のいく選択肢が見つかるのか、という課題があるのも事実だからです。
 多様な生き方の選択肢を社会が認めていないと、家族もそれをよしと思えない。家族がよしと思えないと、本人もそう思えず不安になる。つまり、社会全体が多様な価値、選択肢を認め、多くの人たちがその思いを共有しないと、家族も本人も新たな道を選びたくても選べない状況に陥ってしまいます。
 もし、社会が多様な生き方に寛容であれば、本来受けられる治療を拒否したり、福祉サービスに背を向けるといった事態は起きにくくなるでしょう。
 自分が家族や社会に認められていると思えば必要な支援を受け入れられるかもしれませんが、認められていないと感じると動けなくなり、苦しくなる悪循環が起きてしまいます。


【支援できる社会へ】社会参加へ一直線ではなく 新しい生き方を一緒に探そう

 コロナ禍によってオンラインでの交流が普及し、社会は大きく変わっています。個人の発信力がビジネスになったり、どこにも所属していないからこそできることがあったり。いろいろな選択肢で輝ける社会へと、徐々に変化しています。
 一度ひきこもったから「もう無理」ではなく、「今からでもできるんだ」という希望を持てる、新しい生き方が生まれる機会は大いにあります。ただし、それが軌道に乗るまでのサポートが必要です。
 回復の姿として思い描きがちな「社会参加へ一直線」の道ではなく、本人なりの新しい生き方を一緒に考えてくれる相談機関として、県や市が運営するひきこもり地域支援センターがあります。相談者にじっくり関わることが可能な機関です。また、各地域の保健所や市町村の担当窓口など、生活圏域に1カ所は相談窓口があります。まずはご家族が連絡されてみてはいかがでしょう。
 今はLINEでの心の悩み相談なども実施されています。本人が検索し、多くの情報に触れながら自分に合いそうな相談先やサポートを見つけるのもいいでしょう。



【おわりに】「いたわり」「希望」を大事に

 ひきこもりになったことで家族に責められ、家族が隠し続けている現実があれば、本人も社会を警戒し続けることになります。
 私は「ひきこもりを問題視しない方がいいですよ」と言っています。問題視して苦しむのではなく、「これからの新しい選択肢を探しましょう」と。
 ひきこもっている本人は限界を超えたからひきこもっているのです。そのことを理解し、傷つけない。「いたわり」「希望」が大事だと考えています。


【県内のひきこもり相談窓口】

◎熊本市外に在住の方は
熊本県ひきこもり地域支援センター ゆるここ
熊本市東区月出3-1-120
熊本県精神保健福祉センター1F
【電話相談】
TEL 096-386-1177
受付時間/月・火・木曜(祝日、年末年始を除く)
9時〜12時、13時〜15時
www.pref.kumamoto.jp/soshiki/40/101912.html

◎熊本市に在住の方は
熊本市ひきこもり支援センター「りんく」
熊本市中央区大江5-1-1 ウェルパルくまもと 3F
【電話相談】
TEL 096-366-2220
受付時間/月〜金曜 9時〜16時 
休所/日曜・祝日、年末年始
www.kumamoto-link.com

 いずれのセンターでも、上記の電話相談のほか、面接による相談、居場所開設による本人支援、家族の学習会などが行われています。まずは電話にてお問い合わせください。
 詳細はホームページでご確認ください。


宮崎大学教育学部
教授境 泉洋(もとひろ)
博士(人間科学)
公認心理師 臨床心理士

・KHJ全国ひきこもり家族会連合会 副理事長
・日本臨床心理士会ひきこもり専門委員会 副委員長
・宮崎県ひきこもり地域支援センター ひきこもり受理会議多職種専門チーム
・筆頭著書に「改訂第二版CRAFTひきこもりの家族支援ワークブック」(金剛出版)、編著書に「地域におけるひきこもり支援ガイドブック」(同)など