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「あれんじ」 2022年9月3日号

【慈愛の心 医心伝心】
第104回

女性医療従事者によるリレーエッセー【第104回】

【第104回】子どもも家族も

 私は駆け出しの小児科医ですが、それでもこれまでに赤ちゃんから思春期の子までいろんな子どもを診療させていただきました。
 嘔吐(おうと)で入院した小学校低学年の子は、症状が改善しても食べると吐いてしまうのではないかと怖くなり、ご飯を食べることができなくなっていました。食べられそうなものを一緒に悩み探し抜いた結果、勇気を出して一口食べてくれた時はとてもうれしかったことを覚えています。
 白血病の幼児は、初めは病室を訪れると不機嫌で暴れていましたが、次第に落ち着いてくれるようになり「お薬を入れるね」と声をかけると「またかよ!」とツッコミを入れてくれるほどになりました。
 もともと子どもが好きで選んだ小児科医という仕事ですが、診療では子どもたちからたくさんの元気をもらい、この仕事を選んで良かったと感じることが多くあります。病んでいる時を見ているからこそ、元気になった時のうれしさもひとしおです。
 子どもの受診・入院はご家族の支援があってこそです。入院していたお子さんのご家族から「先生の『お母さんもちゃんとご飯を食べられていますか?』の言葉は心に染みました」というお便りをいただきました。何気なくかけた言葉がこのように受け止められていることに、はっとしました。子どもの治療は、付き添うご家族にとっても大変なのです。
 病気には風邪のように一過性で良くなるものもあれば、長いお付き合いが必要なものもあります。子どもを診るだけではなく、家族を診るということを心がけていきたいと思います。


熊本大学病院 
総合周産期母子医療センター
医師

大村 怜佳