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「あれんじ」 2021月12月4日号

【元気の処方箋】
正しい知識・迅速な対応を! 大動脈解離

 時に突然死の恐れもある「大動脈解離」。前触れがないだけに、発症の原因や仕組みを知り、予防や必要な対処を知っておくことが大事です。今回は、大動脈解離の原因や症状、治療法などについてお伝えします。(編集=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)

【はじめに】突然死、心不全や脳梗塞の原因に

 大動脈は心臓から全身に血液を送る役割をしており、体の中心を走行しています。

 大動脈解離とは、大動脈の壁に亀裂が入り、そこから血管壁の中に血流が入り込むことによって、本来の流れ道である「真腔(しんくう)」とは違う流れ道「偽腔(ぎくう)」ができる状態をいいます。

 ひどい場合は心臓の出口から足の血管まで解離することもあります。血管壁が弱くなるため破裂して突然死に至ったり、心不全や脳梗塞の原因になったりします。また、そのまま放置すると血管径が大きくなり大動脈瘤(りゅう)となって、やはり破裂する可能性があります。

 正しい知識と迅速な対応により予防や治療が可能な病気なので、よく理解することが重要です。


【原因と症状】大動脈壁の内膜の傷と中膜の劣化 高血圧、動脈硬化などが原因
【図1】大動脈解離の図解

 血管は断面にすると3層の膜で構成されており、それぞれ内膜・中膜・外膜と呼びます。高血圧・動脈硬化・喫煙・ストレスなどが原因となって、大動脈の内膜に傷が入ります。その亀裂が大きいとそこから血液が流れ込み、その力で中膜の内部が裂け始めます。

 本来の血流がある部分ではないところに裂け目を広げながら血液の流れができてしまいます。ひどい場合はその「偽腔」が大動脈全体に及んでしまうこともあります。その血管が裂けている状態を解離と呼んでいます(図1)。


前兆なく突然襲う激痛 すぐに救急車を

 症状としては亀裂が入った部分に激しい痛みが起こります。解離の進展に伴い、激しい痛みも移動していきます。典型的なのは、胸の前側や裏側に起きる激痛です。

 痛みは突然に発症し、その前兆は特にありません。ただ、患者さんによっては痛みが数回に及ぶことがあり、解離の進展に応じて痛みが頻回に起こる場合もあります。初回の痛みの時点で大動脈解離が起こっていますので大変危険な状態です。

 大動脈壁には心臓からの血流が最も高い圧で加わっているので、そのまま放置していると解離した部分はどんどん膨らんでいき、壁が弱くなったところが破裂してしまいます。破裂した場合、激しい痛みとともに大出血によって失神することもあり、残念ながら病院まで無事にたどり着くことは難しくなります。1時間に1%ずつその危険性は上がっていくといわれています。

 破裂する以外にも心臓の冠状動脈の入り口をふさいで心筋梗塞を起こしたり、頸(けい)動脈をふさいで脳梗塞を起こしたり、足の血流が途絶えて歩けなくなったりすることもあります。大変危険な状態ですので、すぐに救急車を呼んで救急病院を受診する必要があります。


【診断】確定診断は造影剤を使用したCT検査で
【図2】大動脈解離のCT画像

 突然発症し移動する特徴的な激しい痛みが胸や背中にあると大動脈解離の診断は容易ですが、そうでない場合もあります。

 確定診断は造影剤を使用したCTで行います。造影剤で大動脈の内部構造や大きさ、枝分かれしている血管の状態などを正確に観察することができます(図2)。大動脈解離のCT所見として特徴的なのは、本来の大動脈の内腔(真腔)に隣接して偽腔を認めることです。そのような所見は通常の血管には見えることはありません。

 また、偽腔がない部分でも壁が弱くなっているため、全体的に拡大しています。通常の大動脈の内径は2〜3pの太さですが、その1.5倍以上となっていることが少なくありません。


エコー検査やドップラー検査でも

 CT以外にもエコー検査で心臓の機能や弁の状態を観察したり、血液のたまりがないかを診断したりします。また、上下肢の血圧測定を行い左右差などがないかを観察したり、頸動脈や腹部内臓の血流を超音波によるドップラー検査で観察したりすることで全身の血流状態を診察します。

 まれに脳梗塞と診断されて救急病院に運ばれてきて、CT撮影すると大動脈解離があった、ということもありますので、大動脈解離を疑った場合には積極的にCTや上記検査を行う必要があります。


【治療】A型は緊急手術で人工血管に
【図3】大動脈解離の分類

 大動脈解離はA型とB型に分類され、心臓の近くの上行大動脈が解離しているとA型、上行大動脈が解離していないとB型と呼びます(図3)。

 一般にA型大動脈解離では緊急手術、B型大動脈解離では絶対安静で保存的治療を行います。

 A型大動脈解離での緊急手術では、破裂しそうで大変危険な部分を人工血管に取り換える手術を行います。

 多くの場合、その範囲は上行大動脈や、頸動脈が枝分かれしている弓部大動脈という部分を置換することになります。手術は全身麻酔で行い、人工心肺装置という機械を使って血液の流れを人工的に行い、心臓や全身の血流をコントロールします。また、全身の体温を低下させて全血流をいったん停止することもあります。人工血管は強靭なので、よほどの合併症がない限りは終生維持できます。


B型は絶対安静で、まず保存的治療を

 B型大動脈解離では安静にして血圧を下げる点滴や痛みを和らげる治療を行って経過観察を行います。B型大動脈解離でも、腹部内臓の血流障害があったり足の血流不良があったりすれば手術を行うこともあります。

 退院した後も、高血圧の薬や血管の状態を改善する薬を内服する必要があります。定期的にCT検査を行う必要もあり、解離した大動脈が拡大して5〜6pの大動脈瘤になった場合、破裂する危険性があるので人工血管置換術やステントグラフト内挿術が必要になります。


【おわりに】生活習慣病の治療や減塩、禁煙などで予防を

 治療法が確立していても、できれば予防したいものです。大動脈解離にならないためには、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病の治療と、日頃からの減塩、禁煙、ストレスの改善が大変重要です。


執筆者

熊本大学病院
心臓血管外科

福井 寿啓 教授

・日本外科学会 専門医・指導医
・日本胸部外科学会 認定医
・日本心臓血管外科学会 専門医・修練指導医