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「あれんじ」 2020年3月7日号

【元気の処方箋】
適切な診断、治療・対処が重要 突発性難聴と加齢性難聴

 若い芸能人などが発症して話題になることもある突発性難聴。また、加齢とともに気になる聞こえにくさ。今回は、さまざまな難聴の中から、突発性難聴と加齢性難聴についてお伝えします。 (編集/坂本ミオ)

【はじめに】65歳以上だと約半数難聴は高頻度の病気

 徐々にテレビの音を大きくしていたり、相手の言っていることが分かりにくくなったりしていませんか?また、突然聞こえが悪くなったことはありませんか? 

 実は難聴は、全人口の10%、65歳以上だと約半数の人が患っている、最も頻度の高い病気の一つです。

 難聴があると周りの音が聞こえにくいため、公共交通機関や病院などさまざまなところで不都合があります。出かけること自体不自由になったり、他人と会話ができなくなるなど生活の質が著しく下がります。

 難聴にはさまざまな原因や程度があり、その治療も異なってきます。耳鼻科医による適切な診断と治療が必要です。


【難聴の分類】さまざまな原因がある内耳性難聴

 難聴には大きく分けて「伝音難聴」と「感音難聴」があります。
 
 伝音難聴は空気中の音波が耳から入って内耳に伝えるまでの、外耳から中耳の伝音障害によって起こります(図1)。よくある病気だと中耳炎や耳垢栓塞(じこうせんそく)などが含まれます。
 
 一方、感音難聴は内耳性難聴および脳の病気によるものが含まれます(図1)。内耳性難聴はさらに、先天性(遺伝性難聴や胎生期の感染症など)、騒音性、薬剤性、加齢性、突発性、メニエール病などがこれに含まれます。

 今回はこの中で突発性難聴と加齢性難聴に関してお伝えします。


【突発性難聴】急に起こる 原因が分からない感音難聴

 突発性難聴は、急に起こる感音難聴で通常片方の耳に起きます。

 内耳の血流が悪くなったりウイルスに感染したり、ストレスで発症することが報告されていますが、現在のところ明らかな原因は分かっていません。

 すなわち、急に起こった感音難聴で原因が分からないものをすべて突発性難聴と呼んでいます。ですので、一言に突発性難聴といっても、どの程度悪くなっているのか、どの高さの音が聞こえにくくなっているかはさまざまです。


改善の可能性が高まる 早期の治療
【図2】突発性難聴

 突発性難聴は早期に治療することで改善する可能性のある病気です。急性期(発症からおよそ1週間以内といわれています)にステロイドホルモンやビタミンB 製剤および循環改善薬、高気圧酸素療法などを用いた治療によって回復することがあります。

 運悪く改善しない場合は慢性的な感音難聴になってしまいます(図2)。


【加齢性難聴】音は聞こえても、分かりづらいという特徴が

 個人差はありますが、誰しも年齢を重ねるとともに聴力は落ちていきます。
 通常、加齢性難聴は高い音から始まり、徐々に全体的に悪くなっていきます。また、音は聞こえても相手が何と言っているか分かりづらいという特徴があります。

 原因としては内耳内の感覚細胞が少なくなっていくことだといわれています。


聴力の改善が認知症の予防に
【図3】加齢性難聴

 最近、難聴があると認知症になりやすいということが分かってきました。

 認知症の予防可能な原因としては高血圧や肥満、2型糖尿病、喫煙、うつ病、運動不足などですが、中でも中高年期の聴力低下が最も重要であると報告されています。

 つまり、難聴が軽度のうちに補聴器で聴力を改善することで認知症が予防でき得るということです(図3)。


【難聴の治療】まずは耳鼻科医による診断を

 慢性期の内耳性感音難聴の根本的な治療方法は残念ながら現在のところありません。しかし、聞き取りを上げる方法として、補聴器や人工内耳手術があります。

 メガネも個人個人の視力・見え方に合わせた定期的な調整が必要であるように、聴力も人それぞれであり年々変化もします。その人個人にあった補聴器の選択と調整が必要です。

 自分では加齢性難聴だと思っていても別の原因のこともあるので、必ず耳鼻科を受診し、診断がついてから補聴器の相談をしてください。


自分に合った補聴器選びが大事

 補聴器も、耳かけ型、耳あな型、ポケット型などがあります。デジタル補聴器では、周囲の雑音を低減してくれる機能や、人工知能を搭載したものまであります。補聴器は毎日使うものですから、個人個人に合った、少しでも不快感の少ないものを選びましょう。

 聴力の程度によっては障害者手帳が取得可能である場合があります。交付されれば、自治体から補聴器購入の補助が出ますので、所属する自治体に問い合わせてみてください。

 両側の感音難聴で補聴器によっても聞き取りが困難であるような高度難聴の場合、人工内耳手術の適応となることがあります。


【終わりに】期待される将来の治療法

 ヒトの内耳感覚細胞は一度消失すると二度と再生しないことが分かっています。慢性の感音難聴ではこの感覚細胞が減少した状態です。

 これに対して将来期待されているのが、内耳内の幹細胞を用いて新しい感覚細胞を再生しようとする試みと、iPS細胞などの幹細胞を用いた感覚細胞の移植再生療法です(図4)。

 動物実験ではいくつかの施設で成果が出ており、今後の発展に期待が寄せられていますが、実臨床で行われる日はまだ少し先になるかもしれません。少しでも早く治療に近づくような成果が出てくることを願っています。


執筆いただいたのは

熊本大学病院 
生命科学研究部 
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 助教
竹田 大樹
・医学博士
・耳鼻咽喉科専門医