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「あれんじ」 2018年2月3日号

【元気!の処方箋】
気のせい? 病気? 目の周りや顔のけいれん

 自分の意思とは関係なく、目の周りがぴくぴくする経験をしたことはありませんか? 「気付けば治っていた」という人もいれば、「続くので不安」という人もいるようです。

 そこで今回は、目の周りや顔のけいれんについてお伝えします。(取材・文=坂本ミオ)

【はじめに】「疲労のサイン」の場合は しっかり休息を

 自分の意思とは関係なく、目の周りがぴくぴくする―。突然そんな症状が現れれば、誰でも驚きます。中には、重大な病気ではないかと心配する人もいらっしゃいます。しかしその多くは、数日から数週間のうちに治まるものです。

 これらは、睡眠不足や疲労、精神的なストレスなどによって起こる筋肉のけいれんです。健康な人にも起こる症状で、「疲労のサイン」と考えていいケースがほとんどです。症状があれば、まずしっかり休息を取り、けいれんを気にしすぎないようにして様子を見ましょう。予防には、普段から疲労をためないようにすることが大事です。

 また、一部の薬によって起きることもあります。特定の薬を飲み出してから起きるようになったと感じるなら、主治医に相談してみましょう。


【治療の対象となる顔のけいれん】名前は似ているが異なる「眼瞼(がんけん)けいれん」と「顔面けいれん」

 ぴくぴくするけいれんが続き治まらない、けいれんが目の周りだけにとどまらず口の周りなどにも起きる…といった場合は、眼科や神経内科、あるいは脳神経外科を受診しましょう。「眼瞼けいれん」か「顔面けいれん」かもしれません。

 疾患名は似ていますが、「眼瞼けいれん」は主に左右両方のまぶたにけいれんが起きるのに対し、「顔面けいれん」は顔の片側、例えば〈左側のまぶたと左側の口の周り〉などがけいれんします。

 また、「眼瞼けいれん」には、光がとてもまぶしく感じる、まばたきが多くなるなどの症状もあります。以下に、それぞれの主な症状や原因、治療を紹介します。


◎眼瞼けいれん

【症状】
◎左右両方のまぶたのけいれん
◎羞明(しゅうめい・光を異常に まぶしがる)
◎瞬目過剰(しゅんもくかじょう・ まばたきが異常に多い状態)
が、主な症状として知られています。

 目をギューッとつぶった後にパッと開いたとき、いつもよりもまばたきが増えることも特徴のひとつです。

 どちらかというと女性に多いようです。

【原因】
 ジストニアと呼ばれる、筋緊張を調節する脳の運動プログラムの機能障害による症状だと考えられています。

【治療を担当する診療科】
眼科、神経内科

【治療】
 精神安定剤や鎮静剤の内服で、まずは肉体的、精神的安静を図ります。

 それで改善が見られない場合は、けいれんする部位に筋肉を緩める作用があるボツリヌス毒素を注射します。この注射は、その資格を持つ医師でなければ行えません。

 注射によって筋肉が緩むと、それを脳が感知。筋肉を緊張させる指令が弱まります。それによって眼瞼けいれんが治まってくるという仕組みです。

 効果には個人差があり、1、2回でスパッと治る人もいれば、そうでない場合もあります。注射が必要になる頻度は、人によって3カ月〜1年に1回程度とさまざまです。


◎顔面けいれん

【症状】
 主に、顔の片側の目や口の周りなどがけいれんします。40代以降の女性に多いようです。

【原因】
 脳の血管が顔面神経を圧迫してけいれんが起きると考えられています。それ自体は病気ではなく、血管の位置などが影響しているのですが、これに加え、眼瞼けいれんと同じように、ストレスなどで脳の運動プログラムが過剰に働いている場合もあるようです。この2つの要素が絡み合っているのではないかと考えられています。

【治療を担当する診療科】
眼科、神経内科、脳神経外科

【治療】
 まずは鎮静剤の内服を行います。そこで効果がなければ、次のステップとして、眼瞼けいれんと同様にボツリヌス毒素の注射による治療があります。

 MRI検査で血管が神経を圧迫していることが確認できれば、その血管の位置を動かす顔面神経減圧術という手術を行います。


確立されている治療法 心配しすぎず相談を

 ボツリヌス毒素の注射による効果は、人によって差があります。非常によくなる人がいる一方で、あまり改善が見られない場合もあります。効果がどう出るかを事前に予測することができないことは、あらかじめ知っておいていただきたいと思います。

 また最近は、脳のプログラムを抑制する手術が行われるようになってきました。

 けいれんは不愉快な症状ですが、生命に影響を与えるわけではありません。前述のように、治療法も確立しています。あまり悩まず医師に相談し治療を受け、少しでも改善してほしいと思います。


【メモ】顔以外にも起きるジストニアによる症状

 筋緊張を調節する脳の運動プログラムの機能障害によって、制御できない運動状態(不随意運動)となるジストニア。これが原因となって現れるのは「眼瞼けいれん」だけではありません。

 首や肩の筋肉が収縮し、首が傾いた状態になる「痙性斜頚(けいせいしゃけい)」や、字を書こうとするとぎゅっと力が入ってしまい、うまく書けなくなる「書痙(しょけい)」。喉に症状が出ると、声が詰まったり途切れたりする「けいれん性発声障害」となります。


【終わりに】気持ちを楽に暮らすのも予防や改善に

 自分の意思とは無関係な不随意運動を起こさせる、不要な運動プログラムがなぜ働くのか。明確なことはまだ分かっていません。ただ、まじめで几帳面、神経が細やかな人に多く見られることから、脳に細かな情報が繰り返し与えられることで過剰な反応を引き起こし、誤作動につながるのではないかといった仮説も立てられています。

 気持ちを少し楽に、ややおおざっぱに暮らすのは、予防や治療の効果を上げることにつながるようです。

 ストレスを減らし、笑顔で暮らすことは、健康な暮らしの基本だと思います。


話を聞いたのは
熊本大学大学院
生命科学研究部神経内科学
アジア神経難病研究・診療寄附講座 
中根俊成(なかねしゅんや) 特任教授
 
専門は、免疫性神経疾患、不随意運動、自律神経疾患。

・日本内科学会認定医
・日本神経学会専門医
・日本神経学会指導医