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「あれんじ」 2015年10月3日号

【四季の風】
第31回 小鳥来る

 秋は北方から鳥が渡ってくる。鷹、鴨、鶴などとは別に、鶸(ひわ)、鶫(つぐみ)、連雀(れんじゃく)、尉鶲(じょうびたき)のような小型の渡り鳥を、俳句では「小鳥」といい、「小鳥来る」という。

 この小鳥がまるで雲のように群れてくるのを「鳥雲」、その羽音が風のように聞こえるのを「鳥風」、その色彩が美しいものをとくに「色鳥」とよぶが、これらの季語を生んだ先人たちのセンスの良さには驚くばかりだ。

 金峰山の山道を歩いていたときのこと。長袖のシャツの袖をめくると、それはハッとするような緋色。近くに小鳥の気配を感じてすっと腕を伸ばすと、私の手の甲に、それは美しい小鳥が舞い降りた。いいタイミングで、これはまるで「相聞(そうもん)」。私と小鳥が心通わせた瞬間。うれしくて、その日は一日、心あたたかだった。

袖口の裏の緋色や小鳥来る     岩岡中正

 心通わせるといえば、蕪村の次の句。

小鳥来る音うれしさよ板庇(いたびさし)   与謝蕪村

 板で葺(ふ)いた質素な板庇。いかにも静かな暮らしぶりである。そこへ訪(おとな)うのは、小鳥だけ。小鳥のかすかな足音に心弾ませる蕪村。音を通して見えてくる美しい小鳥たち。

 「夏河を越すうれしさよ手に草履」の作者は、ここでも率直に「音うれしさよ」と言った。小鳥を通して、自分のいのちを確かめているような句である。