【専門医が書く 元気!の処方箋】
発症や再発を予防 脳梗塞に対する血管の手術
脳卒中死亡の60%以上を占めると言われる脳梗塞。その治療法は薬物(内科的)治療が基本ですが、最近、脳梗塞の発症や再発を予防できる血管手術が進歩してきました。今回は、「脳梗塞に対する血管の手術」について、お伝えします。 |
はじめに |
【図1】
脳卒中とは、意識を失うほどの重篤な脳の症状が急にでる病気という意味ですが、その実体は脳血管の血流障害です。 |
原因によって異なる手術療法 |
【図2】
本来、脳梗塞に対しては急性期(発症から数日以内)に手術を行うことは特殊な場合を除いてあまりありませんが、脳梗塞の再発予防の目的で脳梗塞が十分落ち着いてから手術による治療を行うことがあります。また、脳ドックなどでの検査結果から、脳梗塞の発症の前に予防目的で同様の手術を行うこともあります。 |
【内頸動脈狭窄症】 |
【内頸動脈狭窄症】 |
脳に入ってくる最も大きな血管が内頸動脈です。頸部(首)の両側部を通るこの血管は、動脈硬化症が起こりやすいことが知られています。この血管は脳へ大量の血流を送っていますが、動脈硬化で血管の内部が細くなり過ぎると脳の血流が低下し脳梗塞を起こす場合があります。また、ある時この動脈硬化の部分から硬化巣の一部や、できた血栓がはがれ、それらが流れて脳の血管に詰まり脳梗塞を起こす場合もあります。 |
中大脳動脈閉塞(または狭窄)症 |
中大脳動脈などの脳内の比較的太い血管(内頸動脈も含めて)が、動脈硬化の進行でゆっくりと詰まってしまう場合があります。長期間かけてゆっくりと血流が減少してくる場合には、少しずつ周囲の別の血管から新生血管が伸びてきて(側副血行路)血流が供給され始めるため、最終的に血管が詰まってしまっても梗塞になる部分は少なくて済みます。そのため、小さな脳梗塞で発症し症状が軽くても、よく調べてみると大本の血管が詰まっていたりすることがあります。こういった患者さんでは、脳の血流検査=SPECT(スペクト)検査=を行うと、脳梗塞の範囲よりもっと広い範囲で脳血流が低下しています。これらの脳梗塞とはなっていない血流低下の部分は、言わば水道の水の流れが悪くなっていても少ない水でなんとか生きながらえている部分に相当します。従って、こういった部分にはどこからか新しい水道の供給源を作ってあげれば将来さらに脳梗塞が広がることを予防することができるわけです。 |
おわりに |
脳梗塞の発症や再発を防止するための手術法が進歩してはきましたが、いきなり手術に頼るのではなく、まず禁煙の上、高血圧、高コレステロール、糖尿病などの治療・管理を行い予防に努めることが重要です。 |
今回執筆いただいたのは… |
熊本大学大学院
生命科学研究部脳神経外科学分野 森岡基浩 准教授 医学博士 脳神経外科専門医 脳卒中学会専門医 日本脳循環代謝学会評議員 |