【熊遊学(ゆうゆうがく)ツーリズム】
「詩」がその最高峰! 「フランス文学」の楽しみ方
先端の研究者をナビゲーターに、熊本の知の世界を観光してみませんか! 熊本大学を中心に地元大学の教授や准教授が、専門の学問分野の内容を分かりやすく紹介する紙上の「科学館」「文学館」。それが「熊遊学ツーリズム」です。第8回のテーマは「フランス文学」。さあ「なるほど!」の旅をご一緒に…。 |
【はじめの1歩】 |
大熊教授のご専門は、フランス文学の中でも詩、特にポール・ヴェルレーヌの詩だとお聞きします。ヴェルレーヌといえば上田敏訳の「秋の日の ヴィオロンの ためいきの 身にしみて ひたぶるに うら悲し…」という詩が思い出されます。 |
Point1 フランス文学の定義とは? |
「画家のポール・ゴーギャンが、私たちはどこから来たのか? 何者なのか? どこへ行くのか? と言っていますが、これが文学研究の基本ではないかという気がします」と語るのは、熊本大学文学部文学科の大熊薫教授です。「文学」というジャンルは幅が広く、詩や小説、文芸評論、随筆、戯曲だけではなく、歴史や哲学も含まれているのです。 |
Point2 フランス詩の男性韻と女性韻 |
フランスの定型詩の形式の一つは「脚韻を踏む」ということです。 |
Point3 フランス詩の醍醐味はリズムにあり |
日本の俳句は五七五、短歌は五七五七七のリズムを持っています。日本語の場合、基本的に子音には必ず母音が付いていますから、1文字を1音節と数え、俳句は十七文字、短歌は三十一文字で構成されます。 |
【ポール・ヴェルレーヌ(1844〜1896) 駆け足プロフィール】 |
若いころから詩人を目指したヴェルレーヌでしたが、親に反対されてやむなく市役所に勤め、仕事の傍ら詩作を続けます。このころ『土星びとの歌』や『艶なる宴』などの詩集を発表し文壇に認められますが、私生活は酒を飲んではけんかを繰り返す日々でした。 |
【メモ1】 フランス詩の変わり種 |
元来、フランスの詩は耳で聞いて楽しむものです。でも、中には変わり種があって、目で見て楽しむ詩も存在します。ギヨーム・アポリネールという詩人が1918年に出版した『カリグラム』には、文字で描いた絵のような詩がたくさん登場します。 |
Point4 ヴェルレーヌの詩の奥深さ |
19世紀は「フランス文学の宝」と言われるほどフランス文学が豊かに花開いた世紀です。「この時代に排出した作家名はAからZまである」とさえ言われています。 |
【メモ2】 死後に再発見されたヴェルレーヌの傑作 |
ヴェルレーヌの時代は、詩を書くことが直接お金にはつながりませんでした。ヴェルレーヌも詩集は自費出版で、費用は母親持ち。一生貧乏のまま、母の財産を食いつぶしたと言われます。 |
【メモ3】 図書館の語源は「聖書」 |
よく「すべての学問の始まりは聖書だ」といわれますが、聖書に書かれていることを確認するためにさまざまな学問が生まれたと言っても過言ではありません。「空に輝く星々は神が作られた」ということを調べるために天文学が生まれ、数学が発達しました。錬金術が化学になりました。フランス語で図書館は「ビブリオテック(bibliothéque)」と言いますが、語源は「聖書(bible)」から来ています。聖書1冊には図書館全部の知識が詰まっているというわけです。 |
【なるほど!】 |
文学は、人間とは何かをいろんな面から研究する学問。
文学に新旧はありません。 熊本大学文学部文学科(仏文学) 大熊 薫 教授 脚韻に加えて男性韻と女性韻を駆使し、さらにすべての行の音節をそろえて書かなければいけないフランスの詩…、語彙(ごい)がよほど豊富でないととても書けません。フランス文学の最高峰と言われるゆえんですね。それを研究するとなると、フランス語に堪能なだけではなく、キリスト教にも造詣が深くなければなりません。それを実践し、一人の詩人についてひたすら深く研究を続ける大熊先生に脱帽です。 |