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「あれんじ」 2017年11月4日号

【元気!の処方箋】
女性や小児、高齢者に多い 膀胱炎(ぼうこうえん)と腎盂腎炎(じんうじんえん)

 膀胱炎は、排尿時の痛みや頻尿など、生活の質を下げる症状に悩まされます。

 今回は、膀胱炎と、さらに症状が重くなる腎盂腎炎についてお伝えします。

【はじめに】
【図1】

 腎臓は握りこぶしぐらいの大きさで、腰の少し上の背中側に2個あります。腎臓には毎日たくさんの血液が送られてきます。腎臓では、体内で不要となったものを尿として分別しています。

 尿は腎臓から腎盂、尿管、そして膀胱、尿道を通って排せつされます。この通り道を尿路といいます(図1)。

 作られたばかりの尿は無菌です。尿路は細菌などが侵入しにくい仕組みになっていますが、尿路のどこかで細菌などが増えてしまうのが尿路感染症です。

 一般的には小児、青年期の女性、そして高齢者に多く、尿路感染症の代表的なものが膀胱炎と腎盂腎炎です。


【膀胱炎】排尿痛、頻尿、尿の混濁が三大症状

●原因の多くは大腸菌 繰り返さないよう注意

 尿の出口(尿道口)から細菌が逆行して進入し、膀胱内で増殖することによって起こります。尿道の長さに違いがあるため、男性より女性に多く発症します。

 排尿痛、頻尿、尿の混濁が三大症状です。その他にも、血尿、残尿感、尿意切迫感、尿失禁、下腹部痛などが認められますが、発熱はほとんど認めません。

 原因となる細菌の多くは腸内細菌である大腸菌です。水分を多めに摂取する、あるいは抗菌薬による治療で、通常はすみやかに治ります。

 ただし、尿路に異常がある、あるいは糖尿病、ステロイドという薬を服用している、などの場合には膀胱炎を繰り返すことがあります。

 何度も繰り返して抗菌薬による治療を続けていると、薬が効きにくい細菌(耐性菌)が膀胱炎を起こすようになります。

●十分な水分、疲れをためないなど予防が大切

 そうならないためには予防が大切です。膀胱内に細菌が入らない状況を保つ、あるいは細菌が増殖する前に流してしまえば細菌は増えにくくなります。

 水分を十分に取り、尿意を我慢せず、局所の清潔を保つことが大変重要です。疲れがたまったり、風邪を引いたりすることでも膀胱炎にかかりやすくなるので、一般的な風邪予防なども重要です。


【腎盂腎炎】発熱、腰痛、悪寒戦慄(せんりつ)など重い症状
【図2】

【原因と症状】単純性と複雑性がある腎盂腎炎

 膀胱炎と同じで、多くは病原細菌の逆行性感染によって起こります。その感染が腎盂と呼ばれるところにまで広がってしまった状態を腎盂腎炎といいます(図2)。

 全身の病気や尿路に問題がなく発症するタイプを単純性腎盂腎炎と呼びます。一方、尿路に何らかの異常がある場合や糖尿病、あるいはステロイドをはじめとした免疫力を抑える治療を受けている場合などに発症するものは複雑性腎盂腎炎と呼ばれます。

 膀胱炎より症状は重く、発熱と腰痛、また悪寒戦慄を伴った38℃を超える発熱がみられます。

 腎臓には血液が豊富に流れていますので、腎盂を超えて細菌が血流にのって全身に広がったり(菌血症)、さらに悪化すると敗血症と呼ばれる命に関わる状態になったりする可能性もあります。


◎単純性腎盂腎炎 かかる確率が高くなる閉経後や高齢女性

 基礎疾患がない人に起こる急性の腎盂腎炎で、膀胱炎症状に続いて発症する場合や、前触れなく急に発症する場合があります。青年期の女性に多いのが特徴の一つですが、男性でもまれにかかる場合があります。

 原因となる細菌は、膀胱炎と同じく腸内細菌で、やはり多いのが大腸菌です。

 一般的に閉経後や高齢の女性では、膀胱炎や腎盂腎炎にかかる確率が高くなります。

 腎盂腎炎を繰り返す場合には、尿路に基礎疾患を有する可能性もあるため、泌尿器科できちんと検査を受ける必要があります。


◎複雑性腎盂腎炎 きちんと治療しないと繰り返すことに

 何らかの基礎的背景がある場合に生じる腎盂腎炎です。左上に、複雑性腎盂腎炎を起こす主な背景を示しています。特殊な状況として、治療のために膀胱内にカテーテルと呼ばれる管を留置している場合もあります。

 いずれの場合もきちんと治療を行わないと、腎盂腎炎を繰り返すことになります。

 症状は急性期であれば単純性腎盂腎炎と同じです。しかし複雑性腎盂腎炎では、再燃を繰り返すことで難治性となり(耐性菌の出現)、慢性に経過することが多くなります。このような場合には自覚症状が目立たず、気づかないうちに腎不全になってしまうこともあるので注意が必要です。


【複雑性腎盂腎炎を起こす主な背景】

◎尿路の狭窄(きょうさく)や閉塞(へいそく)を起こす疾患
 前立腺肥大症、尿路結石、
 前立腺/膀胱がんなど

◎神経因性膀胱
 排尿機能を調節する神経の障害

◎膀胱尿管逆流症
 膀胱内の尿が、尿管から腎盂、さらには腎臓へと逆流する疾患

◎免疫力が低下した状態
 糖尿病、がん、白血病、ステロイド、免疫抑制剤の服用など

◎膀胱内にカテーテル(管)が留置されている


【治療】早めに受診、検査や治療を

 単純性腎盂腎炎の場合は、適切な抗菌薬投与と補液(あるいは十分な水分摂取)により、すみやかに症状は改善します。

 しかし急激に重篤化することもありますので、早めに病院で検査や治療を受ける必要があります。

 複雑性腎盂腎炎の場合に問題となるのは、耐性菌の出現によって抗菌薬が効きにくくなることや、徐々に腎機能が低下してしまう可能性があることです。

 ですから、排尿障害や糖尿病などの基礎疾患を適切に治療することがとても大事です。また抗菌薬による治療を行う場合も中途半端な治療で終わらないよう、きちんと治療を継続することが大変重要です。


【メモ】小児の尿路感染症 高熱を繰り返す場合は検査を

 小児の尿路感染症は比較的頻度の高い疾患ですが、乳幼児などでは発熱以外の臨床症状に乏しいことが多いのが特徴です。

 注意しないといけないのは、膀胱尿管逆流と呼ばれる機能障害が隠れている場合があることです。

 感染を繰り返すことで腎障害(逆流性腎症)を来す恐れがあります。この場合、比較的若い年齢で末期腎不全になることがあります。

 お子さんが高熱を繰り返す場合はきちんと病院で検査を受けることが重要です。


【終わりに】

 膀胱炎や腎盂腎炎はとても身近な感染症です。普段から無理をしないようにし、水分を十分に取るようにしましょう(病院で水分制限を指示されている場合は主治医の先生に相談してください)。

 また、尿意をあまり我慢しないことも大切です。

 気になる症状があれば早めに医療機関を受診してください。


執筆いただいたのは
熊本大学医学部附属病院
腎臓内科 
中山裕史 講師
 
・日本内科学会総合内科専門医・指導医
・日本腎臓学会専門医・指導医
・日本透析医学会専門医・指導医

【専門】
腎炎、腎不全、高血圧、電解質異常