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「あれんじ」 2017年6月3日号

【元気!の処方箋】
2030年には100万人を突破する!? 心房細動(しんぼうさいどう)とはなにか?

 「不整脈」や「心房細動」など耳にする機会があります。字を見ると、なんとなくイメージがつかめそうな気がしますが、具体的なことは知らない人が多いのではないでしょうか。

 そこで今回は、不整脈と、その中の一つである心房細動についてお伝えします。

【はじめに】最も多い不整脈の一つ 高齢になるにつれ増加
【図1】刺激伝導系

 心臓は左右の心房と心室という4部屋に分かれており、それぞれの部屋の心筋の収縮と拡張により、リズミカルに血液を吸入し送り出しています。

 この機能を維持するために、心臓内には刺激伝導系という電気的信号を心臓全体に伝える経路があります。通常、右心房の上部に存在する洞房結節から電気信号が発生し、この信号が心房の収縮を経て刺激伝導系を伝わり心室心筋へと伝えられ心室の収縮が起こるわけです(図1左)。

 心電図で見ると、まず心房の興奮収縮が起こり、P波が形成されます。次に心室の興奮収縮が起こりQRS波が記録されます(図1右)。この興奮パターンが繰り返されるのが正常の心電図です。

 この伝導系に異常が生じることで不整脈が発生します。

 不整脈には心拍数が遅くなる徐脈性不整脈と、逆に速くなる頻脈性不整脈があります。最も多く認められる頻脈性不整脈の一つとして、心房細動が挙げられます。

 心房細動は日本において現在約80万人に認められるといわれていますが、高齢になるにつれて罹患する確率が増すため、2030年には100万人を突破すると予測されています。


【心房細動とは】
【図2】心房細動の発生機序


心不全や脳塞栓(のうそくせん)症の原因に
【図3】心房細動で生じた血栓が引き起こす塞栓症の合併

 心房細動は主に左心房の肺静脈との境界部から、洞房結節とは異なる異常な電気信号(期外収縮)が発生することにより、心房内に不規則な電気的興奮が持続するようになったものをいいます(図2)。

 すると心房の電気信号が不規則に心室へと伝導することになり、心室の収縮が不規則になることにより脈拍の乱れが生じ、動悸やめまい、あるいは胸部不快感として感じられます。

 心房細動では、心拍数が異常に早くなると心不全が引き起こされます。また、心房内の血液の流れが乱れることにより血栓(凝血塊)を生じ、この血栓が左心室を経て心臓から流れ出て手足の動脈に詰まる四肢塞栓や脳の血管に詰まる脳塞栓症の原因となることがあります(図3)。


リスクを知って予防を

 心房細動が原因で起こる脳塞栓症は、もともとの血栓のサイズが大きく、脳の比較的大きな血管を閉塞するため広範で重症の脳梗塞を生じます。ですので、予防が大変重要です。

 心房内血栓を生じるリスク因子としては、もともと心機能が低下していて心不全を起こした既往のある人や、高血圧、糖尿病、あるいは過去に脳卒中を起こしたことがある人、年齢が75歳以上である場合などです。これらのリスク因子を持っている場合には、心房内血栓を予防するために抗凝固薬の内服が必要です。


7日以上続く持続性心房細動
【図4】心房細動の検査

 心房細動は発生初期には自然停止する場合が多く、7日以内に自然停止するものは発作性心房細動と定義されます。

 心房細動が繰り返し起こると心房筋のダメージや心房の拡大などの器質的な変化(変性)が生じ、なかなか自然停止しなくなります。このように長時間心房細動が持続し7日以上続くものは持続性心房細動と定義されます。

 どちらも同じ心房細動ですが、発作性に比べ持続性心房細動の方がより心房の変性が進んだ状態の心房細動といえます。

 心房細動は自覚症状がある場合とない場合があります。自覚症状がある場合には、その際に心電図を記録することで容易に診断がつきます。しかし自覚症状がないと診断がつかない場合が多く、24時間心電図や携帯型心電計を用いた検査が必要となります(図4)。


【心房細動の治療】
【図5】


薬物やカテーテル アブレーション治療など
【図6】高周波カテーテルアブレーション

 心房細動に対しては、心拍数をコントロールする薬や、心房細動が起こるのを抑制するための抗不整脈薬投与が行われます。

 薬物治療以外には心房細動を治すために行われるカテーテルアブレーションという治療法があります。この治療はカテーテルを用いて、左心房の肺静脈連結部周囲に高周波通電を行い(肺静脈隔離と呼ばれます)、心房細動の原因となる肺静脈と左心房の電気的交通を遮断する治療法です(図5)。

 右足の付け根の部分から、局所麻酔を行った後、静脈内にカテーテルを挿入し、心臓内へと進め治療を行います(図6)。


早期の治療で高い効果

 この治療は心房細動が早期の段階、すなわち心房の変性や拡大が起こっていない発作性心房細動で高い治療効果が望めます。

 カテーテルアブレーションを行うことによる治療効果は70〜80%の患者さんで認められます。特に若年者で心房の拡大のない早期の発作性心房細動では80〜90%の効果が望めます。

 一方、持続性心房細動では発作性心房細動に比べカテーテルアブレーションの治療効果はやや低くなりますので、心房筋の変性が進んでいない早期の発作性心房細動の段階で治療を行うことが大事と考えられます。


【終わりに】

 心房細動は中年以降の比較的高齢者で発症が多い不整脈です。また血圧の高い人ほど多く認められます。初期の段階で発見し適切な治療を行うと根治する可能性が高くなります。

 中年以降の方で高血圧がある場合などは、定期的に健康診断などでの心電図検査を受けることが必要です。また、脈の乱れがあると感じたら早めに循環器専門の医療機関を受診されることをお勧めします。


執筆いただいたのは
熊本大学医学部附属病院
不整脈先端医療講座
山部浩茂 特任教授
  
・日本内科学会認定内科医、認定指導医
・日本循環器学会認定循環器専門医、 認定指導医
・日本不整脈心電学会認定不整脈 専門医
・日本不整脈学会植え込み型除細動器施設認定医
・日本不整脈学会心臓再同期療法施設認定医