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「あれんじ」 2017年4月1日号

【元気!の処方箋】
治療の幅が広がってきた肺がん

 肺がんは年々増加しています。2016年のがん統計予測(国立がん研究センター)では前年度に引き続き、がんの中で死亡数予測が最も多い、気になる病気です。

 そこで今回は、肺がんの診断や治療についてお伝えします。

はじめに

 日本では、高齢化とともに肺がんの患者数が増加しています。

 がんによる死亡の原因として男性では第1位、女性では大腸がんに続いて第2位と多く、まだまだ克服するべき課題も多い状況です。しかし、最近は新しい有効な治療法が次々に登場し、治療の選択肢が増えてきています。


【症状】進行するまで症状がないことも多いので注意を!

 長引くせきや、血液まじりの痰、息切れには注意が必要です。 しかし、進行するまで症状がないことも多く、「せきも痰もないから大丈夫」と自己判断することはできません。
 検診などで無症状のうちに早期発見するのも肺がん克服の重要なポイントです。


【診断】肺の中の細胞や組織を採取 調べて、判定

 肺がんの診断は、肺の中にある細胞や組織を、何らかの方法で一部採取することから始まります。

 痰の中に混じったがん細胞で診断されることもありますし、気管支カメラ(内視鏡)を使うこともあります。CT写真で病変を確認しながら局所麻酔で体の表面から針を刺して組織を採取する検査もよく行う方法です。

 そうして採取した細胞や組織を顕微鏡で見て、本当に肺がんかどうかを判定します。


【遺伝子検査】遺伝子異常に対して新しいタイプの薬剤が効果を発揮

 採取した肺がんの組織を使って、遺伝子検査を行います。これはここ十数年で肺がんの検査としてすっかり定着しました。

 がんの遺伝子に、ある特定の異常が見つかると、分子標的治療薬と言われる新しいタイプの薬剤が高い効果を発揮します。

 現在、EGFR、ALKという名前の遺伝子の検査を行っています。またその他にも多くの遺伝子異常が発見され、それぞれに対する新しい薬が近々日本でも使えるようになるといわれています。


【肺がんの治療】免疫療法が加わり、柱が4つに

 肺がん治療は、手術、放射線治療、薬物療法(抗がん剤、分子標的治療薬)の3つが柱でした。ここに平成26年末から免疫治療(免疫チェックポイント阻害薬)というもう一つの柱が加わり、治療の幅が広がってきています。


◎手術

 肺がんを完全に治せる可能性が最も高い治療法です。
 手術が可能かどうかは、肺がんの広がり具合、患者さんの状態によって異なり、専門的な判断が必要です。

 肺は右肺が3つ(上葉、中葉、下葉)、左肺が2つ(上葉、下葉)、計5つに分けられ、一般的には5つのうち病巣のあるいずれかの肺葉を切除します。

 呼吸への負担を小さくするため、より縮小した範囲(区域)の切除で手術を行うことも行われてきています。

 最近は、胸腔鏡といわれるカメラ装置で胸の中を観察しながら手術をすることで、従来よりも胸部の切開創を小さくして体の負担を少なくすることが可能になりました。


◎放射線治療

 放射線をがん病巣に当てて、がん細胞を死滅させようとするものです。

 治療機器や治療設計方法の進歩によって、正常組織への影響をできるだけ抑え、がん病巣に放射線を集中させる方法が進歩しています。

 高齢の方や重度の合併症がある方に手術の代わりとして行ったり、病巣部位の痛みを和らげるために行ったり、と目的に応じて使い分けられます。


◎薬物療法

●薬物療法(1)抗がん剤(化学療法)

 がん細胞に強くダメージを与えますが、正常の細胞も少なからずダメージを受けるため、さまざまな副作用が起こります。ただ最近は、効果が高くて比較的副作用の軽い抗がん剤が増えてきたこと、副作用を抑える薬剤が進歩したことなどから、問題なく治療を継続できる方がほとんどです。

 普段の生活や仕事を続けながら、外来で治療されている方もたくさんいらっしゃいます。

●薬物療法(2) 分子標的治療

 がん細胞の中の標的となる分子に、弓矢で的を射抜くように、ピンポイントで作用する薬による治療です。

 特に肺がんでは前述したEGFR、ALKといった遺伝子に異常がある場合は、分子標的治療薬が高い効果を発揮します。

 さらにこれらの薬が効かなくなった時にも効果を発揮する、次世代の分子標的治療薬もすでに登場して、治療に使われ始めています。

 最近では血液中に流れる微量のがんの遺伝子を、採血で検出して治療につなげる方法も行われるようになってきました。

 まさに日進月歩といった感があります。


◎免疫療法

 がんには免疫系による攻撃を回避する仕組みがあるのですが、それをブロックすることで治療効果を上げるのが、免疫チェックポイント阻害薬という新しい免疫治療です。 新聞、テレビでもよく取り上げられており、ご存知の方もいらっしゃるかと思います。

 皮膚がんに続いて、肺がんに対して承認され、一部の方には非常に高い治療効果を上げることが知られています。治療の第4の柱としてその地位を確立しています。

 ただ免疫機能に関連した特徴的な副作用が見られることもあり、その点は注意が必要な薬です。


終わりに
熊本大学医学部附属病院呼吸器内科 佐伯 祥 助教
・日本内科学会総合内科専門医
・日本呼吸器学会呼吸器専門医
・日本がん治療認定医機構がん
治療認定医

 肺がんで大事なのはやはり予防(禁煙)と早期発見(検診など)です。

 また、肺がんと判明した場合には、治療方法の選択だけでなく、症状のコントロール、生活支援、就業継続の支援、気持ちの支援など、いろいろな面からのサポートが必要になります。医療機関ではそれらに応える準備をしています。どうぞご相談ください。