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「あれんじ」 2013年5月4日号

【専門医が書く 元気!の処方箋】
「自宅で療養したい」という思いに応える 在宅緩和ケア

 痛みや苦しみをできる限り取り除き、自宅で尊厳のある生活を送るためのケアを提供する在宅緩和ケア。がんの患者さんを対象としたイメージが強いですが、それ以外にも広がりを見せているといいます。
 今回は、在宅緩和ケアの現状や展望についてお伝えします。

緩和ケアとは

 「家に帰りたい」と願う入院中のがんの方は多くおられます。その思いにどのように応じたらよいのか悩む家族もたくさんおられることでしょう。
 そのような家族の方に少しでも役立つことを願い、緩和ケアの説明から始めます。
 緩和ケアは、患者・家族の求める思いを尊重していく医療や介護のあり方です。痛みや苦痛のない生活を願う患者の「身体と心と魂の安らぎ」を目指しています。
 症状を緩和する医療と共に、患者や家族とのコミュニケーションを大切にしています。
 緩和ケアの対象となる疾患はがんと思われていますが、世界の緩和ケアの潮流はがん以外のいろいろな疾患、例えば心疾患や認知症などにおいても、生命に関わる重たい状態となった患者やその家族を対象とする方向への広がりを見せています。


在宅緩和ケアとは

 在宅緩和ケアについて考えるとき、それを2つのテーマに分けることが望ましいと思います。一つは今現在の生活や希望を支えるあり方であり、二つ目はまだ先のこととしても、人生の最期をどこで迎えるかに関するものです。
 在宅医療は、自宅生活を支えていますが、自宅での療養が難しくなったときには入院も選択できるよう支援します。参考となる京都府医師会・在宅医療サポートセンターが示す「在宅療養17箇条〜その人らしい人生のために〜」の一部を紹介します。

1条 一歩踏み出す勇気があれば、在宅療養の可能性は誰にでもあります。
2条 住み慣れた自宅で過ごしたい、過ごさせたい、少しでもそう考えたなら、まずは専門家に相談して下さい。
17条 自宅療養に固執する必要は全くありません。自宅療養が困難になったら、皆で次の一手を考えましょう。


がんの在宅緩和ケア


利用するには

◎往診や訪問看護などの相談を

 今回は、がんを例にとって在宅緩和ケアを紹介したいと思います。がんでは病状の進行が速まる傾向があります。退院して自宅で過ごしていた方が救急車で緊急入院するというケースも少なくありません。そこで少し早いと思われるころから、在宅医療の利用を始める方が良いと思います。
 在宅医療を考えたら、まずは今のかかりつけ医に在宅緩和ケアも担当可能か、相談してみましょう。24時間体制で電話連絡や往診などの対応が可能であれば、必ずしも在宅療養支援診療所(病院)でなくてもよいと思います。
 かかりつけ医による担当が不可能な場合、各地域には、在宅医療を担当できる医療機関があります。現在、治療を受けている病院の相談窓口や地域包括支援センターなどに相談すると、最寄りの在宅緩和ケアを提供できる医療機関の情報が得られます。訪問看護ステーションなどの訪問看護師も必要ですので、それも相談します。
 次に大切なのは、介護保険に関することです。65歳以上が申請対象ですが、がんの場合は40歳以上なら申請できます。サービスを利用することになった場合、まず介護支援専門員(ケアマネジャー)のいる居宅介護支援事業所を決め、介護用品や訪問介護事業所からヘルパーの派遣を検討します。また、保険調剤薬局の薬剤師が自宅に出向いて服薬指導をすることもあります。


医療者の訪問回数

◎患者や家族の希望と医療者の判断で

 在宅緩和ケアの訪問回数は、患者や家族の希望と医療者の判断を交えて決まります。昼間、床に就いて過ごす時間の割合により、訪問回数は変わります。日中30%程度横になっている状態なら、医師と訪問看護師がそれぞれ週1回の訪問でよいでしょう。一方、昼間、寝ている時間が70%程度まで増えた場合、医師が週の前半と後半に診察するとともに、訪問看護師も同様に2回の訪問が望ましいと思います。


外来化学療法の支援

◎併用が可能な時期がある

 県内の各地域にがん診療連携拠点病院があります。がんの診療における外来化学療法の継続を希望する患者と家族を支えています。また、在宅緩和ケアを担当する医療者も、より長い期間の治療が継続できるよう支援しています。
 実は、がんの外来化学療法と在宅医療を併せて利用できる場合があります。介護保険で要介護と認定される状態の場合には、在宅医療の併用が可能です。がんではさまざまな症状が出てきますので、がん治療を担当する病院の医師と看護師に加え、自宅での診察に出向いてくれる在宅医療の医師や看護師を併せて持つことは有益です。


気になる医療費

◎上限額は1万2000円

 気になる在宅医療に要する医療費について、70歳以上で支払額が10%の一般の方の場合において概説します。1カ月の外来および在宅医療の上限額は1万2000円です。在宅療養支援診療所(強化型)から医師の訪問診療が、2週 間に1回の場合は月額7000円程度、週1回の訪問で月額1万円程度、週2回以上の訪問で支払い上限額の月額1万2000円です。
 現在、がんの外来化学療法を継続する方の中には、在宅医療の必要性は分かっていても、その分医療費の負担額が増えることを思うと、在宅医療の開始にためらいを感じるという方もあることでしょう。
 実は、1カ月の医療費に関して、あまり知られていない合算という制度があります。外来化学療法や在宅医療を担当する医療機関に支払う診療費・薬剤費および訪問看護ステーションによる訪問看護費は合算できます。70歳以上の一般の方では、合算により1万2000円を超える金額は高額療養費として支給されますので、一時的な支払いは必要ですが、数カ月後に費用が戻ってくるのです。
 がんの方が人生の最期を迎える場所は、今後も病院や緩和ケア病棟などの入院施設が主体であることは変わらないと予想されます。最後まで家で過ごすことを決めるという方は多くはありませんので、現状では在宅緩和ケアを希望される方は全員利用できる状況にあるといえます。


緩和ケア病棟の新指針とその活用

◎精神的な援助や介護休暇の支援なども

 熊本県内には11カ所の緩和ケア病棟がありますが、それらは平成24年度の診療報酬改定において示された「緩和ケア病棟の評価の見直し」に沿った機能を目指しています。
 国の緩和ケア病棟への指導内容に、「緩和ケア病棟は、ホスピスとしての機能と在宅移行支援としての機能が期待されるが、入院待ちする患者数の増加等を踏まえ、外来・在宅緩和ケアの充実と併せて在宅への円滑な移行を促進するため、緩和ケア病棟入院基本料の評価体系の見直しを行う」と記されています。
 緩和ケア病棟は、がんの痛みを和らげ、食欲不振や倦怠感への対応などを担当します。また、精神的な援助やリハビリテーションを行い、家族の介護休暇の支援なども行うようになりました。これまでの看取りを主体とした緩和ケア病棟の機能に加えた新たな内容が期待されているのです。
 熊本市内の緩和ケア病棟へ入院する方の多くは、自宅に戻り難いので緩和ケア病棟が空くまで一般病院での入院を継続し、緩和ケア病棟に転院するという経過をとられています。しかし、1〜2週間でも自宅で過ごしたいと希望される場合は、病院から退院して在宅緩和ケアを利用し、その後に緩和ケア病棟に入院することも可能です。
 熊本市内には緩和ケア病棟が7カ所ありますので、人生の最後の1〜2週間を継続して自宅で過ごすか、緩和ケア病棟に入院するか、その選択が可能です。在宅緩和ケアを利用してきた方が、トイレへの歩行を難しく感じだしてから、緩和ケア病棟や、あるいはより早く入院できる一般病棟へ入院するという方法もあります。有料個室であれば、希望後数日以内に入院可能な緩和ケア病棟も出てきました。
 緩和ケア病棟が今後も県内に増えることは、在宅緩和ケアを支援するためにも必要です。各地域の自治体病院や医師会病院などが新病院棟に建て替わる際に、住民運動などによる意思表示があれば緩和ケア病棟の創設の可能性は高まるでしょう。熊本市民病院はそのような時期を迎えているようなので、新病院に緩和ケア病棟の開設を希望する市民は、その願いを伝えることが望ましいと思います。


おわりに

 在宅医療は、自分の願う療養のあり方や生き方を自ら選択することから始まります。実際の経過の中では、希望する療養の場所が途中で変わることは自然なことです。
 かつての米国ホスピス運動の記録に「希望するように、最期の時を生き、希望する場所で死を迎えることができる」と記されています。今後、熊本県の緩和ケアは、利用者と医療者の思いに基づき、さらに発展することでしょう。


今回執筆いただいたのは
熊本ホームケアクリニック

井田 栄一 院長

「緩和ケアの専門医療施設として心の声を聴きながら『地域と時代の要請』に応える」を基本理念に、2005年10月 熊本ホームケアクリニック(無床)を開設。熊本緩和ケア情報センターを併設。
・日本緩和医療学会(暫定指導医) 
・日本癌治療学会 (会員)